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音楽コラム集

【コラム】映画研究部NOAH 第26回「はじまりのうた」

2020.05.02

覚えているだろうか。 2017年、日本の映画界を驚かせた「カメ止め」こと、「カメラを止めるな!」。

公開当初は2館のみでの上映だったが、口コミで広がり、全国上映へ拡大。

目標動員5,000人を遥かに上回る200万人の動員で大ヒットした。日本中でも知らない人はいないだろう。

そんなカメ止めのように、爆発的に大どんでん返しでヒットした映画が、アメリカにも存在する。

それがこの音楽映画



「はじまりのうた」

2013年の公開当初は、アメリカでわずか5館のみだったが、SNSや口コミによって、全米で1,300館まで広がり、世界中でも次々に公開された。

日本では2015年に公開し、こちらも当初は10館のみだったが、公開後たちまち話題になり、単館公開ながらも興行収入1億円を突破した。

【あらすじ】

彼に振られたシンガーソングライターのグレタと、音楽レーベルを首になり途方に暮れていたダンが、ひょんなことから出会い2人でアルバムを作ることに。

アルバムを作るお金も、スタジオを借りるお金もない2人だったが、思考を凝らし、野外でのレコーディングを決行。

ニューヨークのあらゆる場所で、電車や車、人々の声などの雑音をも音源材料としながらレコーディングを進め作り上げていく。

アルバム制作が小さな奇跡を呼び、再出発した彼女たちにとって最高のアルバムが完成する。

【「音楽」が好きなすべての人へ 】

 
この映画は、今音楽に携わっている人、音楽好きの全ての人に見てほしい映画の1つだ。

会社にも、場所にも、人にも縛られず「自由に音楽を奏でている」彼女たちを見ていると、音楽を始めた頃や好きな曲・アーティストに出会い夢中になった瞬間を思い出させてくれる。

また、彼女たちが、ニューヨークの街並みの中でアルバムを作り、そのアルバムが形になっていく様子をみていると、観客も不思議とワクワクしてくる。

音楽映画としての完成度が高いこの映画だが、監督のこだわりから成り立っている部分がかなり大きい。

監督の名は、ジョン・カーニー。「ONCE ダブリンの街角で」が大ヒットし一躍有名になった。

今では「音楽映画を代表する監督」とまで言われるようになったが、彼は元々バンドマンだった。

1990~93年にアイルランドのロックバンド「The Frames」の初代ベーシストとして活動し、その後映画監督に転身。彼が原案から脚本、監督までつとめた「シング・ストリート 未来へのうた」は、彼の人生を表している映画とも言われている。

(気になった方は、こちらも是非チェックしていただきたい。)

元バンドマンであるが故に、この映画でも演出や小道具など、かなり細部までこだわっている。

ダンがグレタと出会うライブハウスのシーンでは、普通なら肉眼で見えない彼のグレタへのトキメキや、頭の中で鳴っている音を、上手くスクリーン上で表現されている。

レコーディングシーンでは、彼らはお金がない中で制作しているという設定なので、意外なものを機材として使用していることも多い。

筆者がこんなもので代用しているのか!と驚いたのは、「ストッキング」である。どのシーンで何の代わりに使われているのかは、実際にみて確かめてみてほしい。

ちなみに、音楽にかなりシビアなジョン・カーニーは、主演のキーラ・ナイトレイに何度も歌のダメ出しをしたんだそう。(ちなみに、公開後も彼女への苦言が止まらなかったとの噂も...。)

その甲斐もあってか、実際の演奏シーンやレコーディング風景は、不自然な部分が全くなく、本当に音楽を演奏しているかのような再現度だ。

それだけ音楽にこだわりと情熱を持った彼の映画は、音楽が好きでどんな人が見ても、納得できるような内容になっていると言える。

【キャストがとにかく豪華】

 

ストーリー以外にも注目してみていただきたいのが、豪華なキャスト陣だ。

本当にインディペンデント映画なのか?と疑ってしまうほどである。

まず、主人公グレタ役のキーラ・ナイトレイは、ディズニー映画で有名な「パイレーツ・オブ・カリビアン」のヒロイン、エリザベス役だ。

劇中に度々流れる彼女の歌は、飛び抜けて上手いわけではないが、透明感のある声と主人公の気持ちにより沿い、そのシーン毎に合った歌い方に引き込まれる。

音楽プロデューサーダンを務めるのは、マーク・ラファロ。彼は、アベンジャーズに登場するアメコミヒーローの1人、ハルク役に大抜擢され、彼の演技は前任の俳優たちを超えたと評価された。

劇中では、酒に溺れ家族にも捨てられた「THEダメ男」の落ちこぼれっぷりに是非注目してみていただきたい。

また、グレタの彼氏であるデイヴ役を務めるのは、「世界で最も売れたアーティスト集団」の1つである、maroon5のボーカリスト、アダム・レヴィーン。

彼にとってこの映画は、俳優デビュー作となったのだが、デビュー作とは思えない役者っぷりと、トップアーティストだからこそ表現できる楽曲、そして圧巻のハイトーンボイスに鳥肌なしではいられないこと間違いなしだ。

【 原題 "Begin Again" の意味 】



この映画は音楽映画ではあるが、人との繋がりや感情を描いたヒューマンストーリーも含まれている。

1度は自分の人生に失望した2人だったが、「今目の前にあるものに、全力で取り組む」ことで、自分に自信がついたり周りからの信頼を取り戻したりと、自身の力でどん底から這い上がることができた。

もし、今人生に迷ったり落ち込んでいるのであれば、是非この映画を見てほしい。あなたの進むべき道を、導いてくれるにちがいない。

そして、この映画を見終わった頃には、タイトル「Begin Again」の意味が、きっとあなたにもみえてくるだろう。 最後に。

劇中で歌う彼女たちの名曲は、iTunesなどサブスクリプションでも聴くことが出来る。映画を見終わった後、是非1度チェックしてほしい。きっとまた、この映画の世界に飛び込みたくなるだろう。

https://music.apple.com/jp/album/begin-again-music-from-inspired-by-original-motion/1440819079

作品データ
原題:Begin Again 公開:2015年(日本)
上映時間:104分
監督・脚本:ジョン・カーニー
制作:アンソニー・ブレグマン、トビン・アームブラスト、ジャド・アパトー
撮影:ヤーロン・オーバック
美術:チャド・キース
衣装:アージュン・バーシン
編集:アンドリュー・マーカス
音楽:グレッグ・アレクサンダー
音楽監修:アンドレア・フォン・フォースター、マット・サリバン
画像、文献引用サイト:https://eiga.com/movie/79775/ https://theriver.jp/john-carney-films-review/