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音楽コラム集

コラム【映画研究部NOAH】ミュージック・ビデオの元祖は誰だ!?(後編)

2016.09.26

前編はこちらです(←クリックしてね) さて、前編ではミュージック・ビデオの元祖はビートルズ、という定説にのっとって解説をいたしました。 しかし、もう一人忘れてはならない人がいる。 ボブ・ディラン! ディランの1967年公開のドキュメンタリー映画「ドント・ルック・バック」の冒頭に印象的な映像がある。 dontlookback2 自身の曲「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」をBGMに、工事現場を背景に立つディラン。手には単語が書かれた紙の束を持ち、カメラに向けてその単語を見せている。それは歌詞からピックアップされた言葉で、曲の進行と同時にその紙を一枚ずつ捨てていくのだ。うしろの工事現場には何やら議論をしている2人組がいて、その片方がよく見るとビート詩人のアレン・ギンズバーグだったりする。 映画の内容は1965年の英国ツアーに同行したドキュメンタリー。そのつもりで見始めたらいきなりコレである。当時の若きディランのクールな佇まいも相まって、これが最高にカッコいいのだ。公開の時期はずれこんだが、1965年に撮影されていることを考えると、この映像が昨今のミュージック・ビデオの元祖!と私は言い切りたくなる。 前編ではビートルズの幻のドキュメンタリー「レット・イット・ビー」について取り上げたが、実はディランにも幻の映像作品がある。しかも、自身で監督と脚本、主演をこなした劇映画で、きちんと劇場でも公開された。タイトルを「レナルド&クララ」という。 poster_of_the_movie_renaldo_and_clara 30代より若いそこそこ洋楽に詳しい人でもこの映画の存在を知っている人は少ない。なぜなら映画「レット・イット・ビー」と同じく現行ではリリースされていないからだ。 「レナルド&クララ」は1978年に公開されたが、制作時期は数年さかのぼる。 ディランは1975年秋と、1976年春にディランのキャリアの中でも伝説となっているツアー「ローリング・サンダ・レヴュー」を敢行した。ディランは34歳。現在では名作とされるアルバム「欲望」の制作直後で、まさに脂ののりまくっいた頃に行ったツアーだった。共演にジョーン・バエズ、ランブリン・ジャック・エリオット、ロジャー・マッギンといった盟友を迎え、ステージメンバーにはその後、ギタリスト、音楽家として活躍するTボーン・バーネットなどの多くの若手が集められた。その様相はディランが意図するところのキャラバン、旅芸人の一座のようであった(個人的にはグラムロック時代のデヴィッド・ボウイを支えたギタリスト、ミック・ロンソンが参加しているのがたまらない)。 その前半戦である1975年秋のツアーに、劇作家サム・シェパードがディランの要請で参加した。脚本家として映画制作に協力するためだ。ディランはオファーの際に、「天井桟敷の人々」と「ピアニストを撃て」の2本のフランス映画のタイトルを引き合いに出して構想を語ったという。ツアーとともに撮影は進行し、インターバルを置いてツアー終了の2年後、1978年の1月に完成した。完成した映画は「ローリング・サンダー・レヴュー」での演奏シーンと、ディランが"レナルド"という男を演じ、奥さんやツアーメンバーもそれぞれに役をあてがわれて演技をするドラマシーンとで構成されていた。しかも232分というボリュームの大長編だった。 この映画について取り上げた書籍やネット上の記述を読むと、あることに気づかされる。それは物語についての説明がどれにも載っていないということである(いや、自分自身はかつて刊行されていた「シネマぴあ」かなんかで読んだ気がするが、2人のロマンスがどうの、という薄い内容だったと思う)。それはつまりこういうことだ・・・「内容が全くわからない」。 映画はアメリカ国内のいくつかの劇場で限定的に公開された。批評家はともかく、ドラマパートに一般の観客がついていけず、評判は芳しくないものばかりであった。国外ではほぼ4時間あるオリジナルはヨーロッパでテレビ放送された。その後、渋々ディランは編集をやり直し、2時間バージョンを作成した。不評だったドラマシーンが大幅にカットされ、ライヴの記録映像がそのぶん際立つ仕上がりとなった。日本で限定公開されたのはこの2時間バージョンだったようだが、見た人に言わせれば、「それでも内容はわからない」だそうである。結局、なんとなく忘れられたような感じで長らく公式のリリースはないまま時は過ぎた。ファンの口に上ることもなくなっていった。 しかし!2002年、ローリング・サンダ・レヴューを記録したライヴアルバム"The Bootleg Series Vol.5 Bob Dylan Live 1975"がリリースされた際の初回特典として、この映画の演奏シーンからの抜粋が収録されたDVDが付属していた。中途半端に小出しにするくらいならがっつり見せてください、先生!と言いたくなるが、ディランはいつだってディラン。 ディランが「レナルド&クララ」をリリースするか、その答えは風に吹かれている! PVの源流を探るつもりが、ビートルズとボブ・ディランの知られていない作品を取り上げて終わる結果となりました。 次は、ミュージシャンが監督した映画で面白そうなものでも取り上げてみようかと思います。 20世紀の巨人、フランク・ザッパの撮った「200モーテルズ」なんていうのはかなりわけわかんなくて面白いです。 (NOAHBOOK 高橋真吾) ※画像はWikipedeliaより